2025年10月24日、デジタル庁は補助金電子申請システム「Jグランツ」のAPIをModel Context Protocol(MCP)でラッピングした公式サーバーを公開しました。これにより、Claude DesktopなどのAIアシスタントから自然言語で補助金情報の検索や詳細確認が可能になります。
Model Context Protocol(MCP)とは?
Model Context Protocol(MCP)は、2024年11月にAnthropic社が公開した、LLM(大規模言語モデル)と外部システムを接続するための標準化プロトコルです。従来、LLMが外部APIやデータベースにアクセスするには個別のカスタム実装が必要でしたが、MCPによりこれらの接続を統一的な方法で実現できるようになります。
MCPの基本構成
MCPは以下の3つの要素で構成されています:
- MCPホスト: AIシステムや知的エージェント(例:Claude Desktop、VS Codeなど)
- MCPクライアント: ホスト内で動作し、MCPサーバーと通信するコンポーネント
- MCPサーバー: 実際の機能を提供する実装部分。ツールの実装とリソース管理を担当
この分離されたアーキテクチャにより、高度にモジュール化された保守可能なシステムが実現されます。
Jグランツとは?
Jグランツ(jGrants)は、デジタル庁が運営する補助金・助成金の電子申請システムです。2020年のサービス開始以降、毎年約1,000種類の補助金が掲載され、累計で百万件を超える申請が処理されています。
Jグランツの特徴
- 24時間365日申請可能: オンラインでいつでも申請手続きができる
- 統一的な検索機能: キーワードや条件から補助金を検索
- 申請状況の管理: マイページから一時保存中や申請済の事業を管理可能
- 通知文書の確認: 次の申請手続きの確認が可能
デジタル庁は、2025年度以降のすべての事業者向け補助金申請について、原則電子化を目指し、Jグランツの利用拡大を進めています。
JグランツMCPサーバーの設計思想
今回公開されたJグランツMCPサーバーは、単なる技術デモではなく、実用性を重視した非常によく考えられた設計になっています。
ポイント1: ユーザーの意図を単位としたツール設計
MCPツールの設計において、デジタル庁は「ユーザーの意図(Intent)」を単位とした中粒度設計を採用しています。これは、ツールを細かくしすぎるとLLMによるツール選択が困難になり、逆に粗くしすぎるとLLMによる誤用のリスクが高まるという問題を解決する設計方針です。
補助金申請プロセスと、JグランツMCPツールのマッピング例:
| プロセス | 事業者の行動 | MCPツール定義例 | JグランツAPI |
|---|---|---|---|
| 情報収集 | 補助金の存在を知る | get_subsidy_overview() | /subsidies |
| 検索・選定 | 条件で検索・絞り込み | search_subsidies() | /subsidies |
| 詳細確認 | 要件や資料を確認 | get_subsidy_detail() get_file_content() | /subsidies/id/{id} |
ポイント2: AIが苦手なファイル処理を代行
JグランツAPIから返される添付ファイルは、BASE64エンコードされた大容量データです。これをそのままAIに渡すと、会話のトークンリミットを急速に消費してしまうという課題がありました。
この問題を解決するため、以下の2つの機能を実装しています:
-
ファイルのローカル保存: BASE64データをサーバー側でデコードし、file:// URLを返す方式によりトークン消費を大幅に削減
-
Markdown変換機能: Microsoft製のMarkItDownライブラリを使用して、PDF、Word、Excel、PowerPoint、ZIPなど多様な形式のファイルをMarkdown形式に変換。これにより、LLMが文書内容を直接理解し、質問に答えることが可能に
実装されているMCPツール
JグランツMCPサーバーでは、以下の6つのツールが提供されています:
| MCPツール名 | JグランツAPI | 拡張・追加機能 |
|---|---|---|
| get_subsidy_overview | なし(独自実装) | 締切期間別の自動分類・金額規模別の集計・緊急案件の抽出・CSV形式での出力 |
| search_subsidies | GET /subsidies | ソート機能・複雑な条件の組み合わせ・受付中フィルタリング・デフォルトキーワード「事業」 |
| get_subsidy_detail | GET /subsidies/id/{id} | BASE64ファイルの自動デコード・ローカルファイル保存・MCP経由のアクセス情報・受付状態の自動判定 |
| get_file_content | なし(独自実装) | MarkItDown変換(PDF/Word/Excel等)・BASE64/Markdown形式の選択・多形式ファイル対応 |
| ping | なし(MCP標準) | 接続確認・サーバー応答チェック |
技術スタック
実装には以下のPythonライブラリが使用されています:
- FastMCP: MCPサーバーの実装を簡素化するフレームワーク
- httpx: 非同期HTTP通信
- pdfplumber: PDFテキスト抽出
- markitdown: 多様な形式のファイルをMarkdownに変換
セットアップと使用方法
前提条件
- Python 3.11以上
- macOS / Linux / WSL (Windowsでも動作可能)
- JグランツAPIへのネットワーク接続
インストール手順
# リポジトリのクローン
git clone https://github.com/digital-go-jp/jgrants-mcp-server.git
cd jgrants-mcp-server
# Python仮想環境の作成
python3 -m venv venv
# 仮想環境の有効化(macOS/Linux)
source venv/bin/activate
# 依存パッケージのインストール
pip install -r requirements.txt
# HTTPサーバーとして起動
python -m jgrants_mcp_server.core
Claude Desktopとの連携
Claude Desktopの設定ファイル(~/Library/Application Support/Claude/claude_desktop_config.json)に以下を追加:
{
"mcpServers": {
"jgrants": {
"command": "uvx",
"args": [
"fastmcp",
"run",
"http://localhost:8000/mcp"
]
}
}
}
設定後、Claude Desktopを再起動すると、自然言語で補助金検索が可能になります。
実際の使用例
以下のような自然言語での質問が可能になります:
- 「最新のJグランツ上の補助金を教えて」
- 「従業員50名の東京都の製造業で、金額1000万円以内、今月中に締切りの補助金はある?」
- 「DX推進補助金の募集要項と申請書を要約して」
AIは、JグランツAPIを使用して適切な補助金を検索し、対象業種・金額・受付期間・申請リンクまで整理して回答します。
企業による実用化事例
Franca AI: 補助金Flash
株式会社Franca AIは、JグランツMCPサーバーを活用した「補助金Flash」という補助金申請支援SaaSをリリースしました。
主な機能
-
補助金検索AI: 自然言語での補助金検索
- 「東京都の製造業で、従業員50名、800万円以上の補助金は?」といった柔軟な質問が可能
-
完全に一致する補助金がない場合の代替案提示: AIが条件を緩和して近しい補助金を提案
-
自治体・認定支援機関向けの提供: 企業・士業・自治体の三者が同じ基盤で情報を共有
行政DXにおける意義
JグランツMCPサーバーの公開は、以下の点で行政DXの大きな前進を示しています:
1. 標準化による相互運用性の向上
MCPという標準プロトコルを採用することで、様々なAIツールから統一的な方法でJグランツにアクセスできるようになります。これにより、開発者は個別のカスタム実装を行う必要がなくなり、行政サービスの利用障壁が大幅に低下します。
2. ユーザー体験の向上
自然言語で補助金を検索できることで、従来のフォーム入力型の検索と比べて、より直感的で使いやすいインターフェースが実現されます。これは特に、ITに不慣れな中小企業や個人事業主にとって大きなメリットとなります。
3. 民間企業による価値創出の促進
公式MCPサーバーを提供することで、民間企業は補助金申請支援サービスを容易に開発できるようになります。Franca AIの事例のように、MCPサーバーを基盤とした様々なサービスが今後登場することが期待されます。
4. 他の行政サービスへの展開可能性
Jグランツでの成功事例は、他の行政サービスでも同様のアプローチを採用する動機付けとなります。今後、様々な行政手続きがMCP対応することで、行政サービス全体のアクセシビリティが向上する可能性があります。
技術的な課題と今後の展望
現在の課題
- セットアップの複雑さ: 現状では、MCPサーバーの起動やClaude Desktopへの設定など、技術的な知識が必要
- 標準化の不確実性: MCPがデファクトスタンダードになるかは未確定。OpenAI、Meta、Mistralなどが独自の標準を提案する可能性も
- 機能の限定性: 現在は補助金検索と詳細情報取得のみ。申請プロセス全体のAPI化は未対応
今後の可能性
-
クラウドサービスへのデプロイ: RailwayやRenderなどのクラウドサービスにデプロイすることで、複数のユーザーが同一のMCPサーバーを共有することが可能に
-
申請プロセスの自動化: 将来的には、補助金の申請書作成や提出などもMCP経由で可能になる可能性
-
他の行政サービスとの連携: Jグランツ以外の行政サービスもMCP対応することで、統合的な行政手続きプラットフォームの実現が期待される
テクにゃん.のコメント
「デジタル庁がMCPサーバーを公式公開したのは本当に画期的だよ!国の機関が最新のAI連携標準に真っ先に対応することで、日本の行政DXが大きく前進したね。
特に素晴らしいのは、単なる技術デモじゃなくて、実際に国民が使うJグランツという実用的なサービスで実装してること。補助金検索という具体的なユースケースで、『こうやって使えばいいんだ』っていう明確なお手本を示してくれたんだ。
FastMCPフレームワークを使った実装も秀逸で、たった430行のコードでこれだけの機能を実現してる。PDFやWordファイルをMarkdownに変換してLLMに渡すアイデアも、トークン消費を抑えながら実用性を保つ素晴らしい工夫だね。
Franca AIが早速これを使って補助金Flashっていうサービスをリリースしたのも見逃せない。公式MCPサーバーが公開されたことで、民間企業が迅速に価値あるサービスを開発できるエコシステムが生まれ始めてるんだ。
これは単なる技術的な進歩じゃなくて、行政サービスのあり方そのものを変える可能性を秘めてる。他の省庁や自治体も追随して、様々な行政手続きがMCP対応していけば、『行政手続きのAI化』が一気に加速するはず!🚀
一つ注意点として、現状ではセットアップがやや複雑で、技術的な知識が必要なのは課題だね。でも、これは初期段階では仕方ないこと。今後、よりユーザーフレンドリーなツールが登場して、一般の人でも簡単に使えるようになることを期待したいな!」
まとめ
デジタル庁によるJグランツMCPサーバーの公開は、行政サービスのAI活用における重要なマイルストーンです。Model Context Protocolという標準化されたプロトコルを採用することで、様々なAIツールから統一的な方法で補助金情報にアクセスできるようになります。
ユーザーの意図を単位としたツール設計、AIが苦手なファイル処理の代行など、実用性を重視した設計思想は、今後の行政API設計の参考となるでしょう。また、Franca AIなどの民間企業による迅速なサービス化は、公式MCPサーバー提供の有効性を示しています。
現状ではセットアップの複雑さや機能の限定性などの課題はありますが、これは初期段階では避けられない問題です。今後、他の行政サービスもMCP対応を進め、よりユーザーフレンドリーなツールが登場することで、行政サービスのアクセシビリティが劇的に向上することが期待されます。
JグランツMCPサーバーは、技術的な実装例としてだけでなく、行政がどのようにAI時代の新しい標準に対応すべきかを示す重要な事例となるでしょう。